2015-12-11

『海にはワニがいる』 あとがき公開

素敵な表紙画は里見有さんの作品
このところシリア難民の痛ましい話題が続き、冬の到来にどれだけ過酷な状況に直面しているかといろいろ考えさせられます。
そんななかでヨーロッパは経済難民の入国を制限し、シリア、イラク、アフガン難民に限定して入国を認めるなど、決して理想的とは言えない解決策でなんとか対応しようとしています(決して理想的とは言えないというのは、実際のところ両者の線引きはそう簡単な話ではないだろうそう思うからです。ただし難民鎖国を続ける日本とくらべれば、やはり偉いと思います)。
そこで思い出しました。数年前に僕はアフガン難民の少年が陸路でイタリアまでやってくるファビオ・ジェーダ作「海にワニがいる」という作品を早川書房の依頼で訳し、出版しましたが、恒例のあとがき公開をまだしていなかったのです。自分の訳した本の「宣伝」というとどうも気が引ける(なんでしょうね、これは)小心者ですが、この本はできるだけ多くの人に読んでいただきたい一冊です。

本書の文章は小学校の高学年児童のみなさんから読んでいただけると思います(そうなればと思って訳しましたが、むずかしかったらごめんなさい)。主人公はシリア難民ではありませんが、シリアより遠いアフガニスタンからおそらくもっと厳しい道のりをたどって、イタリアまでたどり着いたひとりの少年です。先日新聞で読みましたが、彼と同じようにアフガニスタンから逃れてくる人々は今も絶えずいるようです。

図書館にも入っていると思いますので、どうかお手に取っていただければと思います。
わたしの心のふるさと、座間市立図書館にはあります。ありがとうございます!

国連UNHCRへの募金等、現状をなんとかするためのアクションももちろん大切ですが、現代という時代を少しでもリアルに実感し、さまざまな境遇の人間たちの生活への想像力・共感を養っていくことも長期的に見れば非常に大切だと思います。

『海にはワニがいる』どうぞよろしくお願いいたします。
訳者拝




※以下のあとがきは編集サイドの校正前の文章です。実際に出版されたものとは細部が異なっている可能性がありますことを、あらかじめご了承下さい。
-------------------
 訳者あとがき

 「海にはワニがいる(Nel mare ci sono i coccodrilli)」は、十歳の時に故国アフガニスタンを去った少年が八年間に渡る密入国の旅の末に、ついにイタリアに安住の地を見いだすまでの日々を語ったノンフィクション作品である。
 それはそもそも、少年、エナヤットッラー・アクバリが自ら望んだ旅ではなかった。彼の一族は多民族国家アフガニスタンでも少数派のハザラ人で、多数派のパシュトゥン人とタリバーンからきびしい迫害を受けていた。父親の死後、幼いエナヤットッラーにも迫害の手が伸びるようになる。息子の命を危ぶんだ母親は彼を隣国パキスタンに連れだし、あえて置きざりにした。それがエナヤットッラーの旅の始まりだった。
 パキスタンからイランへ、イランからトルコへ、トルコからギリシア、そしてイタリアへといたる少年の命がけの旅(風雪の中の国境の山越えや、ゴムボートでの密航で、旅の仲間が実際に幾人も命を落としている)の記録は、イタリアの読者の大きな感動を呼び、二〇一〇年の刊行後、数多くの版を重ねている。二〇一一年には同国で最も栄誉ある文学賞のひとつ、ストレーガ賞にもノミネートされて最終選考まで残ったが、惜しくも受賞はならなかった。
 著者ホームページ(www.fabiogeda.it)によれば、本作は既に二十七カ国で刊行が予定されており、「ぼくは恐くない」(二〇〇三年)などの作品がある伊映画プロダクション、カトレア社による映画化も予定されているという。

 本書はエナヤットッラーが語り、著者ファビオ・ジェーダが聞き書きするという体裁をとっている。ジェーダは一九七二年トリノ生まれ。現在もトリノに暮らし、児童福祉・教育問題をテーマに幅広い活動を行っている。多彩なメディアで記事も発表しているが、本人はジャーナリストと呼ばれることを嫌っているようだ。これまでに四冊の本を出版(二〇一一年八月現在)、この「海にはワニがいる」が本邦初登場の作品となる。

 エナヤットッラーは「よりよい暮らしがしたい」という願望に突き動かされ、旅を続けた。彼のいうところの「よりよい暮らし」とは、〝外国でひと山当てて大金持ちになりたい〟というような話ではなく、学校に通い、仕事をし、人間らしく生活することに過ぎない。いわゆる〝先進国〟のわたしたちから見れば、実にささいな願いに見える。それは国の法律で保証された基本的人権の一部であり、当たり前のことであるはずだから。ただし、それが当たり前のことだからこそ、わたしたちには、彼ら難民たちが〝わざわざ〟故国を捨て、遠い日本(あるいはイタリア)までやってくる心がよく飲みこめない部分があるのではないか。本書を通じて、彼の心に少しでも寄りそうことができたなら、それは読者自身にとっても、これからの日本、そして世界にとっても、ひとつ貴重な経験となるだろう。

 最後に、難民受け入れ数の少なさで国際社会から批判を浴びることも多い、日本の難民保護政策について関心を持たれた読者があれば、国連難民高等弁務官事務所の日本語ホームページの訪問をおすすめしたい(www.unhcr.or.jp)。さらに、有名動画サイトでEnaiatollah Akbariをキーワード検索すると、エナヤットッラー本人の登場するビデオ(イタリア語)も視聴可能だ。

平成二十三年八月 モントットーネ村にて 訳者

2015-12-08

Vista da M. Porche (2233m) - ポルケ山からの眺め

おとつい(2015/12/05)の山行での一枚。 フリッカーのページでこの写真へのアクセスが妙にすごいので、こちらでもご紹介。
ある意味、とてもシビッリーニ山地らしい眺めかも知れません。今回のコースではふもとからここまで約6時間。尾根に出ると雪はまるでないか、くるぶしの上くらいまで。古い残雪でキックステップのみ。アイゼンも使いませんでした。ワカンは沢筋で少々使ったけど、なくても全然なんとかなる程度。スノーシューズで全ルート踏破したら、あるいは速かったのかな、どうなんだろう。

Una vista dalla Monte Porche sui Sibillini. Percorso altro ieri 05-12-2015: Foce (945m) - cresta Tre  Faggi - Passo Palazzo Borghese (circa 5 ore) - Monte Porche (2233m)- cresta Frondosa - Fosso Zappacenere - Foce (circa 8 ore).
La neve era poca, non ho utilizzato né i ramponi né la piccozza ma solo gli Wakan, le racchette leggere tipiche dei montanari giapponesi, per breve tratto nel bosco e nel fosso più che altro per divertirmi.



Vista da M. Porche (2233m) 2015-12-05 13-05-52